人との出会いの記憶とは、往々にして古いものになればなるほど、はっきりと思い出せないものが多くなります。
日々色んな人に出会うわけですし、出会った時に、まさか今日まで付き合いが続くことになるとは夢にも思わなかった、っていうのがほとんどでしょう。印象に残る出会いなんて、そうそうあるものでもないですしね。
これからお話させていただきます、ある出会いも、そういった平々凡々な出会いの中のひとつにすぎません。しかし、一年半以上経った今でも、はっきりと思い出せるのです。
そう、これからお話させていただくのは、私「サクヤ」とボマーズ海賊団との出会いの物語です。先に断っておきますが、取り立てて特別な事があったわけでもありません。興味のない方は読み飛ばす事をおすすめします。それでも見たいという奇特な方のみ、そのお目とお耳にいれたいと思います。
それでは、開演させていただきます。
その時の私は、田舎の村からドンドルマの街に出てきて一月程経ち、街の言葉や流行にも慣れ、いよいよ新米ハンターを卒業しようかというような頃だった。
肝心なハンターとしての腕前は、自分で言うのもなんだけど、人並み以上に田舎の村で訓練を積んできていたので、所謂ルーキーハンターばかりが集まる酒場では、満足出来なくなってきていた。
そういう頃にある一人のハンターに出会った。
彼の名前は、レン。
一見、物腰柔らかで紳士的。しかし、ひとたび狩りに出掛けると正反対。豊富な知識と経験に裏付けられた確かな技術を持ちながら、飛龍を目の前にして、のんびり肉を焼く、そういう茶目っ気も持ち合わせた、つかみ所のない不思議なハンターだ。
彼と出会ったのは、ある酒場での話。そこの酒場のメンバーには、知った顔のハンターは一人もいなかった。勿論、この時レンとは知らない者同士。狩りのターゲットは、鋭い鎌と硬い殻が自慢のショウグンギザミだ。何度も戦ったことのある相手なので、油断こそしないが、新鮮さはなくなっていたのも事実。他のメンバーも同じだっただろう、お金を稼ぐのにはもってこいの相手でもあったからだ。
そんな中で、レンの戦い方は異質だった。
通常のショウグンギザミとの戦いで、罠なんていうものはある程度のレベルに達したハンターは、捕獲する目的以外では使わない。罠はコストがかかるし、ポーチもかさばるからだ。
しかし、そんなセコイ金勘定をあざ笑うかのように、レンは惜しげもなく罠を設置した。まだ、狩りが始まったばかりの頃にだ。そして、罠の上にもう二つ、存在は知っていたが忘れていたあるアイテムを置いた。そう、下手すりゃ罠よりコストかかるし、ポーチもかさばる「爆弾」だ。
彼の戦い方は、まるで嵐だった。
戦場のいたるところで火柱を上げる爆弾。常にその中心にはレンがいた。その時の私は、狩りは素材やお金を手に入れるための手段でしかなく、狩り自体を楽しむというハンターの基本を忘れていた。レンは、そんな基本を今も尚、忘れずに戦っている。そんな彼を見て、私もまた初心を思い出すことができた。久しぶりに狩りが楽しいと思えたのだ。
そんな楽しい時間もずっとは続かないものだ。狩りが終わると、用事があるといい、彼は酒場を出て行った。もっと一緒に戦いたかったが、仕方がない。狩りを続けていればまたどこかで出会うだろう、そう思いながら、家に帰って愛刀の手入れでもすることにした。
そして案外、再会は早かった。
その日の夜、再び酒場に寄ってみると、一番奥の席にレンがいた。どうやらあと二人連れがいるようだ。一緒に狩りにいける人数は、その場所にいく船の定員の関係で4人が最大だ。私もあわせて、ちょうど4人になる。人見知りな方なのだが、思い切って声をかけてみる事にした。
「こんばんは、ご一緒いいですか?」
ありきたりな挨拶に、ありきたりじゃない返事で返してくれた、この3人こそ、ボマーズ海賊団の初期メンバーであることは、この数分後に知ることになる。
つづく。